copy and destroy

catch and eat

 「葉巻、ラム酒、花、女たち」。

http://taizooo.tumblr.com/post/110497087425

the whole world is peaceful.

 この14日に95歳で亡くなったキューバの音楽家コンパイ・セグンドの人生は、とても一口で語ることのできない、幸福の意味を考えさせる。音楽家としてのキャリアは1930年代にスタートしているが、その名前が今日のように知られるようになるのは、1990年代である。1989年にワシントンのスミソニアン研究所に招かれ名曲『チャン・チャン』を演奏したことがきっかけになり、94年にセビリア、翌年パリでコンサートを開催。その後97年にライ・クーダーによるオムニバス・アルバムやヴィム・ヴェンダースによる映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を通して世界的な成功を収めることになる。

 ヴェンダースの映画でも印象深いイブライム・フェレールやルーベン・ゴンザレスなども含め、彼らは1958年のバチスタ政権崩壊以降は忘却と貧困のなかで生きてきた音楽家だったことを考えると、ふつうの意味での幸福な人生ではなかったかもしれない。「公務員」として葉巻工場で働き続けた彼がどれほどの年金を受け取っていたか。90歳からの大ブレイクに誰もが拍手喝采したが、そこにいたる60年間が何らかの意味で充実していなければ、とてもあのような味はでないだろう。その年の取り方に表れている充実の秘訣は何だったのだろう。

 「葉巻、ラム酒、花、女たち」。
 セグンドは「生きる喜びとは何か」と聞かれて、こう答えた。音楽を聴いても、スクリーンを見ても、それ以外にはないだろうなという答えだ。アメリカによる経済制裁のおかげでキューバが常に物質的な困窮状況にあることは誰もが知っているが、モノの充実が人生の充実につながるわけではないことは、どうだろうか。白いスーツにパナマ帽、14歳から吸い続けてきたという葉巻をくわえて大らかに笑う音楽家は、「晩年」や「円熟」といった言葉とは無縁の、別の人生のあり方を示して見せた。そこには「ソン」という音楽が生まれた、19世紀カリブ海文化の記憶があるに違いない。久しぶりに聴くコンパイ・セグンドたちの音楽は、「エレガントな綻び」と形容したいような、優しさにみちている。地球が一個の「アメリカ合衆国」となってしまう世界市場経済時代にできた、奇跡的な綻びは、ハッピネスの新しい定義につながるかもしれない。

powered by hatena blog.
the nikki system for lifelogging junkies.

all posts © their original owners.
writing is reusable solely under the by creative commons license.