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日記の本番 2024/07

これは2024年7月の日記の本番です。

BOREDOM

中央本線を八王子あたりまで行くと視界が開けて「東京は真っ平らだ」と思うけども、二駅戻ると高尾は山の端にあって馴染のある風景になる。『ベスト・オブ・ザ・イヤー』にも参戦してもらっている tomoyayazaki クンのコーヒーショップに立ち寄った。

今週末の良かったこと(雨を避けて、インターネットから高尾、三鷹へ) - copy and destroy
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そのコーヒーショップの名前は "BOREDOM" といいます。 "BOREDOM" とは「退屈」のことです。さて「退屈」とは何なのか?

「川の始まりって?」

スチャダラパーのアルバム "WILD FANCY ALLIANCE" 『彼方からの手紙』で彼らは、誰かがつぶやいた「川って海に繋がってるんでしょ?」という一言で、その先を目指します。3時間ほどしたところで誰かがつぶやきます。「川の始まりって?」。来た道をくるりと反転、その先を目指します。ふたたび3時間ほどたったところで誰かがつぶやきます。「なんかお腹すかない?」。あっさり戻ってたらふく食って川のことなんてすっかり忘れて、そんなふうに一日が終わっていきます。これは Out & Back と呼ばれます。行けるところまで行く、来た道を戻る、無事に家まで戻って来る。 Out & Back は冒険の最小単位です。

スポットライト、ドーパミン、テストステロン

現代において人類が冒険に挑む理由はだいたい100個くらいあると考えられています。名誉、称賛、承認、バズ、ロックスター、嬌声、歓声、 etc 。情報化社会ではすべてが測定、計測、評価されます。ソーシャルネットワークの時代にはすべてが公開、共有されます。難しく、高く、より速く、照らすスポットライト、アドレナリン、ドーパミン、テストステロン、リブログ、イイネ、リツイート、これらは人類を魅了する眩しい危険なミックス・カクテルです。この魅惑的なパワーは人類を月面にまで導きました。

しかし冒険にはもっと必須で純粋で原始的な理由が存在します。根源的な核、コア、原子的、始原的、まあなんと呼んでもいい、それが「退屈」です。『彼方からの手紙』の中に、それを発見することができます。

視床下部、下垂体、扁桃体

「退屈」とは心理的・認知的な過程に関連する情動的経験のことを言います。情動、つまり感情です。怒り、恐れ、喜び、悲しみ、これらの感情は本能に依っていると考えられています。それは視床下部、下垂体、扁桃体といった生物の進化的に古い脳の領域に関係しています。情動は脊椎動物が自然淘汰を生き抜くために進化させてきたメカニズムです。僕らが抱く欲求の正体は、それに繋がる快情動、不快情動に依ると考えられています。僕たちは「退屈」を本能的に恐れています。「退屈は悪だ!」「退屈から脱出せよ!」

宇宙の秩序、人間の限界

あるスポーツの中で人類は、限界の天井を大きく突き破りつつあります。それは一見、僕らの知っているスポーツとはまったく無関係に見えたりします。そのスポーツの特徴は、宇宙の秩序である重力と、人間の限界である理性を弄んでいる点にあります。スカイダイビング、ベースジャンプ、フリークライミング、スノーボード、フリースキー、サーフィン、フリーダイビング、ウルトラランニング。これらのスポーツの発展は生物の進化スピードを大きく上回っています。その進化を担っているメカニズムは「フロー」と呼ばれてます。

"4%" のスイートスポット

ミハイ・チクセントミハイによると「フロー」は生活のあらゆる場面で発現する可能性があります。その発現はチャレンジとスキルの、あるバランスによって起こります。それは「退屈」と「不安」という感情の中間にあると考えられています。マジックナンバーは "4%" 、挑戦するべき課題が持っているスキルを4パーセント上回るときに初めて出現します。それ以上ならば不安からの恐怖、または失敗からの死を、それ以下ならば退屈からの無関心、または不注意からの敗北を。"4%" 、この僅かな差異が「フロー」のスイートスポットなのです。この僅かな差異が繰り返しという複利によって大きな変化を生み出します。

繰り返される Out & Back

人類は、この「退屈」と「不安」の間を揺れ動く、カラフルな感情のループを回し続けることで、アフリカ大陸に生存する霊長類の一種から脱し、地球上の食物連鎖の頂点に立ちました。人類は何回目かの氷河期に、ごく狭い地域に、わずか数百人という絶滅寸前にまで追い込まれましたが、その後、何回もアフリカ大陸からの脱出を試みています。その冒険は人類をユーラシア大陸を越えアメリカ大陸の南端へ、または台湾から太平洋を越えポリネシアの隅々にまで導きました。これらは繰り返された Out & Back 、つまり無数に繰り返された「退屈」が生み出したのだ、と言っても過言ではありません。

僕らが冒険に出る理由

以上の考察によって一つのことが明確となります。「川って海に繋がってるんでしょ?」「川の始まりって?」「なんかお腹すかない?」、すべては簡単な問いから始まります。「全部を後回しにしちゃいな」「勇気なんていらないぜ」、現代において僕たちは、冒険に挑むための理由を、なに一つ必要としていません。必要なのはただ一つ、「退屈」、ただそれだけです。

そのコーヒーショップの名前は "BOREDOM" といいます。"BOREDOM" とは「退屈」のことです。退屈、情動、不安、フロー、スイートスポット、繰り返される Out & Back 、

「飛び出せハイウェイ」

私からは、以上です。

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