哲学は、西洋のとある時期のとある場所、つまり前6 世紀後半のギリシア、小アジア沿岸にて誕生した。その最初の歩みはごく小さな一歩を積み重ねることで始まったが、ソクラテス(紀元前469-399 年)の生と死を経て、哲学はある意味では驚くほど急激に花開いた。この1 人の男は、どうやらほぼ独力で次のことを成し遂げたと思われる。すなわち彼は、人間存在の性格と方向性に関する広大でまとまりの薄かった一群の問いを、それ独自の目的と方法を持つ1 つの学問へと昇華させたのである。
もとより、哲学が追い求める問いは、哲学のみが独占するようなものではない。それどころか、哲学者が追い求める主題の多くを、ギリシアの偉大な悲劇作家や叙事詩人たちが検討している場面に出くわすのは、簡単なことである。しかし、次に述べるアプローチをひたむきで断固とした態度で導入したのは、まさにソクラテスだったと思われる。
彼は、すべての内省的な人々が関心を持つ問い(人間の幸福の本性、人間が到達しうる最良の生のあり方、徳と自己の利益の関係、そして、人間の生の究極的な価値といったものに関する問い)に対して、哲学固有のアプローチ─分析的アプローチ─を導入したと考えられている。これらの問題に分析的アプローチを導入するさい、ソクラテスは大抵いつも、徳や幸福の本性、自己の利益、人間の善に関する、拍子抜けするほど単純な問いを投げかける。われわれは皆、幸福とは何かを自らが知っていると思っている。それは、結局のところ、われわれ皆が求めているものなのだから。ここでソクラテスのような人は、次のように問う
「幸福とは何か?」