寺尾紗穂は決して群れず、流されることがない。社会の闇から決して目を逸らすことなく、小さな声に耳を傾けながら、歌と言葉を使って自身の表現活動を続けている。
その意味でいえば、寺尾のニュー・アルバム『わたしの好きな労働歌』は彼女ならではの作品集ともいえるだろう。労働歌といっても労働運動で歌われてきたプロテスト・ソングではなく、農村や炭鉱、工場などで歌われてきたワーク・ソングが取り上げられている。ここには各地の図書館で寺尾自身が探り当ててきた「知る人ぞ知る歌」が収められており、かつてその地に生きていた人々の嘆き、喜び、悲しみ、怒りが生々しく刻み込まれている。寺尾は人々の息吹きを丹念に掘り起こしながら、現代に解き放つ。あだち麗三郎、折坂悠太、小林うてななど、多彩な参加メンバーも華を添えている。
新作と同タイミングで雑誌『ミュージック・マガジン』の連載をまとめた新刊『戦前音楽探訪』も刊行され、音楽家・文筆家としての新作が出揃った今、寺尾にロング・インタヴューを試みた。全曲解説を通じ、日本各地で育まれてきたワーク・ソングの豊かな世界に触れていただきたい。
