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「アメリカ大都市の死と生」 - ジェイン・ジェイコブズ

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ジェイン・ジェイコブズの概要とそのすごさ、意義については、『アメリカ大都市の死と生』の訳者解説で書いたとおりだ。これについては、ネット上で参考文献や細部に関する注まで補った完全版を無料公開してあるので、興味ある向きはお読みいただきたい――というか、本誌のこの特集を読んでいる方がそもそも興味ないわけはないので、ジェイコブズとその業績に関する基礎情報として本誌に手を出す前に熟読は必須だろう。書いたのは 2010年だが、6 年たった今でもおそらく、ジェイコブズに関する紹介と評価としては内外問わず、最も包括的で詳細でフェアなものの一つだからだ。それを決してジェイコブズの専門家でもなければ関連分野の研究者でもないぼくが書かねばならなかったというのは、少なくともジェイコブズの関連領域についての研究者がかなりいることを考えればかなり情けないことだ。

ただでさえ長い本に、解説も結構長くなったため、本に収録した解説は各種の出典や参照文献をつけておりません。それをつけたうえ、多少加筆もした訳者解説の完全版をここにおいておきます。ご笑覧ください。

本書は Jane Jacobs, Death and Life of Great American Cities (Vintage, 1961) の全訳である。既存の邦訳は原著の前半しか訳しておらず、また翻訳自体も問題が多かった。本書は原著刊行から 50 年たってやっと刊行される、初の完訳である。

本書『アメリカ大都市の死と生』は、発表当時はおろか、いまなおその価値が衰えない希有な書物だ。従来はあまり顧みられなかった一般の人々の洞察をすくいあげ、そしてそれが専門家たちの(必ずしも完全に否定されるべきものではないにせよ)ドグマに十分拮抗しうることを示した。本書は都市に対する見方を永遠に変えた。他にこれだけの力を持った本といえば、本書で(不当にも)罵倒されているエベネザー・ハワード『明日の田園都市』くらいだろうか(ちなみに、これまたアマチュアの手になる本だ)。

そして『市場の倫理、統治の倫理』もまた、同様の力を持った本だ。おそらく人が今後も絶滅するまで格闘し続けるであろう社会統御の問題に、彼女は明解な視点を投げかけた。しかも、時代がまさにそうした視点を否定しつつあったときに。むろん、これは『死と生』ほどは一般受けしない本だ。にも関わらず、その視点は「市場か政府か」といった不毛な二者択一をたしなめて、生産的な社会のあり方に示唆を与えてくれる。

だが、こうした著作以上に、これらを書けたジェイコブズ自身が、いまなおアマチュアが持つ可能性を身をもって実証した希有な存在だった。強靱な観察力と十分な思索力に少々の運さえあれば、地位や学歴などまったく関係なく、専門家に負けないどころか、専門家など及びもつかないものを作り出すことが可能なのだ、と彼女は教えてくれる。むろん、そこにアマチュアの落とし穴は常に待ち構えてはいるのだけれど。

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