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日記の本番 2024/12

これは2024年12月の日記の本番です。

それは "2024AC2024" と呼ばれます

毎年12月といえばベスト・オブ・ザ・イヤー・アドベントカレンダーです。今回のそれは "2024AC2024" と呼ばれます。すでに自分のベストを書いてから2ヶ月、2024AC2024 が無事に完走してから1ヶ月経ちます。そろそろほとぼりも冷めてきた頃合いなのでソレについて書きます。

僕は主催者なので、個別の post への言及や、自分自身の感想をできるだけ表明しないようにしていますし、ひたすら公正、フェアであろうとしています*1。本来の僕はかなり邪悪ですし、陰陽でいえば陰の者ですし、実体を隠した匿名アカウントでスクウォッターであからさまに厚顔無恥なのですが、この期間だけは本当に聖人になったような心持ちになります。1年で1ヶ月だけの聖人。

準備から数えれば2ヶ月くらいそういうインターネットでの振る舞いをしていると、もとに戻るのにも時間が掛かります。そういう意味での「ほとぼりが冷めてきた頃合い」です。

未来へのヘイルメリーパス

gyazo.com

毎年、この 2024AC2024 を開催するにあたって、自分自身のやる気を高めるために、1) スローガンになるような引用を見つける、 2) タイトルになるような画像を作る(パッチワークで)、という二つをとりおこないます。今年の引用はこんなものでした。

今に続く支離滅裂な瞬間は、前の瞬間に続き、今に続く波のように、真実、虚偽、その中間のあらゆる録音や写真、証言や説明の波が、司書や記録保管担当者によって集められ、未来へのヘイルメリーパスのように投げ込まれます。

2024 Advent Calendar 2024 - Adventar

めずらしく長い引用です。これはインターネット・アーカイブの記事のものです。文脈は以下のようなものでした。これはインターネット・アーカイブの理念についてのものです。2025年、すでに僕らはインターネットが永遠ではないことを知っています。

私たちが歴史と呼ぶものは、できるだけ記録・保存され、後から再考された、過去の「今」に過ぎません。過去のいかなる部分についても、完全で認識可能な記録は存在しません。魔法のように永久に正確な「歴史」もありません。私たちが現在保管している記録は、矛盾、不確実性、誤りに満ちていますが、明日が今日から引き継ぐことができるすべてです。今に続く支離滅裂な瞬間は、前の瞬間に続き、今に続く波のように、真実、虚偽、その中間のあらゆる録音や写真、証言や説明の波が、司書や記録保管担当者によって集められ、未来へのヘイルメリーパスのように投げ込まれます。

Vanishing Culture: Keeping the Receipts | Internet Archive Blogs


ヘイルメリーパスはアメリカンフットボールに由来します。クォーターバックが放る、リスキーな、見返りの見込まれない、破れかぶれの、試合最後に一発逆転を狙う、レシーバへのロングパスを指します。

ヘイルメリーパスはアメリカンフットボールにおける非常に長い前方パスであり、通常は絶望的な状況で行われ、成功する可能性は非常に低い。このパスで成功させるのが難しいことから、力と助けを求めるカトリックの「ヘイルメリー」の祈りに由来している。

Hail Mary pass - Wikipedia


ヘイルメリーは「アヴェ・マリア」、聖母マリアをたたえる祈りです。それは降誕祭、クリスマス・ページェントでもよく見られるものです。

天使ガブリエルがナザレという町に神から遣わされます。そしてヨセフの許嫁であるマリアのところに来て告げます。
「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」
マリアは、天使からの祝福の言葉を聞いて戸惑い、考え込みます。
天使は言います。「恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名づけなさい。」
マリアは驚きます。「どうしてそのようなことがありえましょう。」
天使は答えます。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。神にできないことは何一つない。」
彼女は答えます。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身になりますように。」

https://www.nskk.org/kyoto/message/111218.html


クリスマスに向けて投げ込まれる25人のヘイルメリーパス。リスキーな、見返りの見込まれない、破れかぶれの、試合最後に一発逆転を狙う、未来へのロングパス。神への祝福として捧げられ、締切に追いかけられた、破れかぶれの post たち。このロングパスをキャッチするのはいったい誰なのか。

「これ以上、ピッタリな引用があるだろうか!(否、ない!)」って一人、ほくそ笑んでいました。たとえ誰にも伝わっていないとしても :)

ただ来ては帰る人に過ぎない

私たちは知られなくても、忘れられても構わない。ただ来ては帰る人に過ぎない

https://www.afpbb.com/articles/-/3506678

この活動には毎年かかさず25人の方が参加します。なぜなら12/1から12/25まで毎日一人ずつ post するからです。そう、それがアドベントカレンダーなのです。すでに10年近い活動になっていますから、述べで数えればびっくりするくらいの人たちが参加してくれています。

そもそもこの 2024AC2024 には主旨がまったくありません。「 a) あなたの ベスト・オブ・2024 教えてください、 b) ルールは簡単!そこに url があるならば、それを貼るだけ」。この二つだけです。「いったいこれはなんなのか」。そう、いい質問です。じつは僕にもわかりません。こんないい加減なアドベントカレンダーにも関わらず、なのです。

毎年参加してくれている人、久しぶりに復帰した人、初めて参加してくれた人、熱心に読んでくれている人、ああまた今年もやっているなと一瞥くれていく人、全然興味なさそうな人、チャンスがあったら参加してみたいと思っている人、間に合わなくて参加しそこなった人、間に合わなくてちょっと安堵している人、それぞれの人たちが、さまざまな関わり方をしています(それぞれがそれぞれのスタイルで)。

本はつねに流れの中にあり、すべての本はこの机に一時滞在するにすぎず、何らかの痕跡を残して、必ず去ってゆく

2024年を探す - copy and destroy

毎年12月になると、僕はインターネットのいつもと同じ十字路に立って、来る人、去る人、通り過ぎる人を眺めている、そんな気持ちになります。ある人は現れて、またある人は去っていく、そしてまたある人は再び帰ってくる。その繰り返しです。Out & Back 。観察者、傍観者。

「価値はあとから見出されるの。それは参加者の役割なの」

僕はインターネット辺境の匿名アカウントですから、実際に面識があったり、リアルになにがしかの繋がりがあったり、そういう人はほとんどいません。それでも25個の枠が埋まって、25日間を完走できているのは、奇跡以外のなにものでもありません。

こんないい加減な、理念もへったくれもない、行き当たりばったりの活動であっても、毎年とにかく毎年、ひたすら続けて、ひたすら続けていると、そこには勝手に「意味」とか「意義」とか「価値」といったものが生まれてくるようです。

パンチラインは読み手によって見出される

いとうせいこうによる探究I - I am Electrical machine

価値はあとから見出されるの。それは読者の役割なの

https://x.com/taizooo/status/1604131603331981312

これはリブログにおけるある一つの定理です。「価値」は参加してくれた人たち、読んでくれた人たちによって作られます。主催者ではありません。その「価値」のなかには「信頼」や「信用」があります。

毎年、新しい人たちがこの場所に参加してくれています。今年はなんと7名でした。全体の3割近い人たちが初参加です。すごくないですか?この得体の知れないアドベントカレンダーに、いっちょ参加してみるか、というその根拠はこの継続が生み出した「価値」によるのだと思います。

今年だとまず mkossy サン*2。 まったく面識もなければインターネットでの繋がりもありません。コッシーさんはフリースタイル BMX'er でありまたシクロクロスのトップアスリートでもあります。僕が勝手に「すごい面白い、カッコイイ」と一方的に思っていただけです。ところがもうビックリしたことに join してくれました。

そして 橋本麦サン*3。やっぱり面識もなければインターネットでの繋がりもありません。2024年に公開された Unicode の文字がひたすら手書きでモーフィングされるムービーをみて「超カッコイイ。イカす!」と一方的に思っていただけです。ところがもうビックリしたことに join してくれました。

全員について述べるわけにはいかないので、一番、縁が遠いとおもわれる、お二方に登場いただきました。たぶんなんですが、この恐ろしいなにかへの join をうながしたのは継続が生み出した「価値」、つまり「信頼」や「信用」で、(それはけっして僕に対するものではなくて、)毎年繰り広げられている25個のヘイルメリーパスであったり、参加している人たちの中に見知ったアカウントがある、みたいなことだったと思うのです。これは凄まじい力です。なんたって10年、25人分の価値なわけですから。ここには僕の大好きなテコの原理が働いています*4

ベストとはいったいなんなのか

さきのインターネット・アーカイブの記事の引用は、次のように続きます。

言い換えれば、何も「捨てられるべきもの」ではないのです。何も。人々はいつか、世界のどこかの場所で、その人々の間で、いつ何が起こったのかを調べたいと思うかもしれません。そして、すべての研究者、読者、作家は、何を保存しておく価値があるかについて、私たちには今理解できないかもしれない独自の考えを持つでしょう。

Vanishing Culture: Keeping the Receipts | Internet Archive Blogs

いったいどういった事や物に、保存しておくべき価値があるのか、僕たちは知るすべがありません。

つづいて2019年の post です。

さて、わたしたちは残念ながら毎日の中でその日に起きた事柄や湧き上がった感情や考えたことのどれがその後重要な鍵になるか見極めることは不可能だ。例えるなら真冬から少しだけ春に近づいた日々に木々の色合いがわずかに変化する様子をその日一日だけで見極めることが出来ないということ。数ヶ月の後に見比べたなら明らかに季節の変化は木々の色を変えるけども毎日の中でそれを知るのは困難だ。小学生のころアサガオの絵日記の宿題があった。毎日その様子を絵に描くのだが、毎日にそんなに変化はない。子供心にもそれだと面白くないと思ったのか少しずつデフォルメして描いていた。気がついたときには実際のアサガオより絵日記のアサガオの方が大きく成長した。そういうものだ。

2018年を探す - copy and destroy

わたしたちは、なにがベストとなるのか日々の生活の中でそれを見極めることができません。

つづいて2024年の post です。

そういう自分の見る目のなさというか、いやちょっと違うか、これがベストだと思っていたことを後から見返すとそれほどでもなかったりすること、みたいな。もしかしたらそれは、世界の変化の様子を知ることができないというよりは、自分が変化していくことを知ることができないみたいな話かもしれない。

https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2024/12/20/171056

ベストを見極めることができないこと、それは客観的、相対的にその事象が「世界においてそれがベスト」であるかどうかを見定めることができない、ということだけではなくて、主観的、絶対的にその事象が「自分にとってそれがベスト」であるかどうかなんて知るよしもない、ということを意味しています。

もう1ヶ月も(2ヶ月も)経ってしまった僕は、すでにあの「2024年を探す」*5 という文章を二度と生みだすことができないほど変化してしまっています。ベストを感じる主体たる自分は、すでにまったく違う人間になってしまったからです。その変化を生んだのは、実はこの "2024AC2024" そのものだったりします。誰よりも僕自身が一番変化しています。なぜならば、この破れかぶれに投げ込まれた25個のヘイルメリーパスを、もっとも享受したのが、他ならぬ僕だったからです。

すべては移り変わって行きます。世界だけでなく自分もです。だからこそなにもかもあらゆるものが未来へむけて、祈りを込めて投げ込まれる必要があります。

誰かに届けと祈りを込めて、インターネットの彼方に向けて投げ込まれるヘイルメリーパスです。

インターネットの彼方に向けて投げ込まれる25人のヘイルメリーパス。リスキーな、見返りの見込まれない、破れかぶれの、試合最後に一発逆転を狙う、未来へのロングパス。神への祝福として捧げられ、締切に追いかけられた、破れかぶれの post たち。このロングパスをキャッチするのはいったい誰なのか。

おしまい。

*1:ベストにおける公正(フェアネス)の話 - copy and destroy https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2024/12/18/143554

*2:Masahiro Koshiyama(@mkossy)さん / X https://x.com/mkossy

*3:Baku⌇麦(@_baku89)さん / X https://x.com/_baku89

*4:「ミックステープってシェルスクリプトを組むみたいな感じがある。「UNIXという考え方」という本にあった「梃子の原理」(テコの原理)の話。いくつかの曲をパイプで連結して。コピー&ペーストは世界で一番簡単なエディットだ。ちょきんちょきんと一曲、一曲をつなぎ合わせるのはバック・トゥ・バック。標準入力、標準出力、フィルターは自分の耳か脳みそか。フィルターを開いたり閉じたりする。ローパス、ハイパス。なんてね https://scrapbox.io/cd/2020%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88_%7C_taizooo#5fe5b10fb30c0100006b99e0

*5:2024年を探す - copy and destroy https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2024/12/01/000000

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