これは2023年12月の日記の本番です。
ちょっと長い前置きから始めます。
2023年、読書は全然で、数ページだけ読んでは止まってしまったり、なんとか巻末までたどり着いても、そこから先へは繋がらなかったりした*1。
7月の始め、押し寄せてくる「公」に抗うように、積読山脈の最下層からクロード・フィッシャー『電話するアメリカ』を引っ張り出して読み始めた*2*3。積読山脈の中でもとりわけ昔からずっとそこにあった本で、しかも買った当時、すでにそれは十分、古い本だった。「そういえば読む本は分厚いければ分厚いほど精神が安定するような気がするな」という単純な印象、ただその物理的な分厚さから、という理由で読み始めた。
そんな『電話するアメリカ』がやっと最終章までたどり着いた8月始め、さらに猛烈に押し寄せてくる「公」に抗って、アルマン・マリー・ルロワ『アリストテレス 生物学の創造』を買った。上下巻で700ページ、8,000円。思いつきで買うにはちょっとしたサイズと金額だった。酔っ払ったその勢いだった*4。書き出しにやられてしまった。『電話するアメリカ』は止まった。やっとたどり着いたのに*5。
そんなふうにして読み始めた『アリストテレス 生物学の創造』なのにあっという間に脱線が始まって、レスボス島、アリストテレスの生物学が始まったその場所、を調べ始めてアテンションは散逸した。せっかく読み始めたのに。メチャ面白いのに。元のページには戻れなかった。結局『アリストテレス 生物学の創造』も止まった*6。
時は進んで、2023年12月。
「公」も終わって、 2023AC2023 の当番*7も終わった12月の始め、再び『アリストテレス 生物学の創造』を読み始めた*8。それでもなかなか読み続ける感じにはならなくて数ページだけ読んでは止まって、数ページだけ読んでは止まってを繰り返して、やっと第6章《イルカのいびき》までたどり着いた。そこでこんなフレーズを発見する*9。
自然の切り取り方には多くの方法がある。そして切り取られたものはそれぞれが異なった相を見せている。
アリストテレスはどこに切れ目を入れたのだろう? どのような科学を作り出したのだろう?
アリストテレスの一番大きな仕事は生物学を作り出したことだ。アリストテレスが成したと言われる論理的な思考も、そのための道具だった。
アリストテレスは生物を540種に分けた。分けることは「分類」と呼ばれる。
アルマン・マリー・ルロワ『アリストテレス 生物学の創造』上巻
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切り取る、切り出す、境界を引く、分けること、これらは2023年を象徴するモチーフだった。
言葉は境界となって世界を二つに分ける。「Aである/Aではない」。境界が引かれれば現実が立ち上がり事実が生み出される。世界を分けることは人間の認識の根幹に関わる
2023年を探す - copy and destroy
パンチラインがカチリと音を立てて嵌ると、事態は大きく動き出す。
なかなか動き出さない僕の読書はいびつな大きな大きな石の塊みたいなもので、揺すっても揺すってもなかなか動き出さない。ところがなんかの拍子にちょっと重心がズレると、グラっと傾いて一気にゴロゴロと転がり始める。
本屋の新書コーナーで気まぐれに開いた本のページに、こんなパンチラインを発見した。
なによりもまず、世界が分節化されていなければならない。
世界は「事実」の総体である。「事実」は「性質」「対象」「動作」といった要素によって構成されている。
「白い」「犬」「走る」。
これを分節化という。
われわれはすでに分節化された世界に生きている。分節化されていない世界とは、いわば徹底的な抽象画の世界にも喩えられるだろう。そこでは、あらゆる対象の輪郭が失われ、それら対象がもっていた意味も消え去る。そんな世界。
野矢茂樹『語りえぬものを語る』
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転がりだしたらもう止まらない。たった一つのパンチラインが、一冊の本を越えて、時間軸も超えて、次々と繋がり始める。
『アリストテレス 生物学の創造』の中に唐突に「プラグマティズム」という文字を発見したり*10、
7月、読書を取り戻そうとして行った本屋で結局なにも買わずに帰って来たんだけど、そのとき気になった本の目次にあった「帰納」「自然の斉一性」「信念」「習慣」といった言葉が12月になって繋がったり*11、
1月、参加しないミートアップのために書かれたプレゼンテーションの、パンチラインとの偶然の一致だったり、
現実があって地図があるのではない。地図ができあがれば、そのとおりに現実が立ち上がり、領土が生み出される
ページが切り出されると現実が立ち上がり事実が生み出される - taizooo
これはセレンディピティなのか、それとも "Joshua Tree Principle" なのか、それともただの妄想か。
草花は一度覚えたら、かならず向こうから目に入ってくる
https://taizooo.tumblr.com/post/715102030236106752
一度転がりだしたら始まりです。もう手遅れです。ご愁傷様でした。チーン*12。
*2:https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2023/07/09/093118
*3:https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2023/07/10/172435
*4:https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2023/07/31/093528
*5:https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2023/08/05/074718
*6:https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2023/08/07/184123
*7:2023年を探す - copy and destroy
*8:https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2023/12/04/165221
*9:https://copyanddestroy.hatenablog.com/entry/2023/12/18/174446
*10:いつの時代も文化は「モダン」に対する「ポスト・モダン」として立ち上がる - copy and destroy