copy は元来「書き写し」を意味した。
木版印刷や活版印刷が普及する以前、書物は筆写されるものであった。学術書や教典の伝統は、すなわち写本の歴史であった。三蔵法師こと玄奘が七世紀に西域から長安に持ち帰ったのは大乗仏教の写本であった。インド各地を遊学しそこで得たサンスクリット写本の一つが『プラジュニャー・パーラミター・フリダヤ』 Prajñā-pāramitā-hṛdayaで、玄奘がこれを漢訳したものが『般若波羅蜜多心経』、一般には「般若心経」と呼ばれるコピーで、弟子が持ち運び日本に伝来した。大陸からもたらされた仏典は写経を通じて伝えられる。
新旧聖書もグーテンベルク聖書として1455年頃から印刷刊行されるまでは、何世紀もの写本制作の長い歴史がある。福音書はイエス復活後に使徒たちが伝承した言行録をもとに、マルコ、マタイ、ルカの共観福音書、そしてヨハネ福音書が一世紀の後半から二世紀にかけて成立した。テキストの比較考量から、未だ発見されていないが、さらに古い言行録Q資料が存在したとも考えられている。
現在読まれているアリストテレス全集は、古代の哲学者本人が書いた著書ではない。大哲学者の著書があったことは知られているが、失われて現存しない。現代に伝えられているのは、アリストテレスが自分の学校リュケイオンで行った講義を、おそらく弟子が書きとったノートである。紀元前一世紀にこの記録が大量に発見され、ローマの政治家スーラがローマに伝え、蔵書家テュラニオンのもとに保管されていたものを、紀元前30年頃ロドスのアンドロニコスが整理して、アリストテレス講義録集成としてまとめあげた。
講義の書き写しは19世紀のヘーゲルの講義など、他にも多く残されているが、これは今でも普通に見られる大学の教室風景だ。
参考文献:
- 『大唐西域記』玄奘 水谷真成訳(平凡社 1999年)
- 『人類の知的遺産〈12〉イエス・キリスト』荒井献(講談社 1979年)
- 『複製芸術論』多田道太郎(講談社 1985年)
- 『アリストテレス全集』アリストテレス 内山勝利、神崎繁、中畑正志編(岩波書店 2013年)