それについて何か書きたいなという気持ちがありつつ、全く書ける気がしないでいる。自分が理解しきれていないからというのが大きな理由だと思うんだけど、本一冊の情報の中からどこを抜き出して何を書けばいいのかてんでわからないし、全章を通してまとめを書くなんてことは到底無理に思える。
File89.少しばかり規範から自由になりたいときに読む本|昨日、なに読んだ?|楊 駿驍|webちくま
ピエール・バイヤールの『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫、2016年)はそれを提供してくれる。
「本を読んでいる状態」と「本を読んでいない状態」の間に多くの中間状態がある。流し読む、ページを飛ばしながら読む、前書きと後書きだけを読む、中の一章だけを読む、ページを千切りとりながらその断片を組み合わせて読むなどとほとんど無限のグラデーションがある。
それでも私たちは本について語れるし、まともな意見を述べることができる。本を規定するのはその内容ではなく、それが身を置くコンテクストだからだ。
そもそも「本を読んでいる状態」とはどのような状態なのか。作者の意図、本の論述とコンテクストをあまねく理解している状態というのが一般的な理解だろう。でも、それはただの幻想だ。私たちは読んでいる最中でも 、片っ端から忘れていくし、読んでいる時に自分のフィルターをかけて内容を歪めながら「理解」していく。その意味で、本を読むことや本について語ることは対象への没入ではなく、常に自己に関わるある種の批評的な行為である。書物は私たちの自己の中で新たに生まれ直すといってもいい。